センター設立二周年理事長挨拶

日中経済の発展の掛け橋を目指すボランディア精神を基礎とした活動を展開
張 紀潯

 今日は2月12日、中国の旧正月初六・大安というめでたい日に当たる。まず、牛年大吉の年に皆様の益々のご健勝を心からお祈りしたい。
 日中経済発展センターは名実ともに、95年1月1日に創立してから日中両国間の経済交流を促進するために活動を展開してきた。既存の日中両国間の交流団体と違って当センターのもっとも大きな特徴は、日中友好交流を志す日中両国の関係者で構成され、両国の専門家によって運営されることにある。したがって当センターは日本側の団体、または中国側の団体という概念でとらえることが出来ない。日本人と中国人が一緒になって対話と交流を深め、相互理解を深めていくのが当センターの特徴である。当センターはこれまでに軽視されてきた日中両国民の交流を促すために定例研究会やシンポジウムなどを通じて交流の場を提供し、両国民の触れ合いと友好交流を深めることによって相互理解を努め、不要な誤解を防ぎより効果的な日中交流を促すことを目指してきた。
 過ぎ去った1996年は、センターの活動をとりまく環境は厳しいものがあった。日本経済は緩やかな回復基調を辿りながらも、なお本格的な回復にはほど遠い、雇用不安や中小企業の経営難は一向に改善されていない。一方、中国は「八・五」計画期の成果を踏まえて、96年3月に『九・五計画及び2010年の長期目標綱領』を定め、21世紀に跨がる長期計画をスタートさせた。昨年の中ごろには中国経済の落ち込みがあったが、第4四半期から好転し、 GDPは当初目標の8%を上回る9.7%を達成した。インフレも基本的に抑制され、物価も落ち着いたが、国有企業の改革は大きな課題となっている。
 1月24日に公表された大蔵省『貿易統計』によれば、96年の日中貿易は95年同期と比べて24.6%増の6 兆7,797億円と過去最高を記録した。対中国輸入が輸出を大幅に上回った結果、日本側の貿易赤字は2兆159億円、ドル換算で186億ドルにも上ってる。日本の対中投資も順調に行われ、対アジア投資の中で、終始トップを占めている。しかし、日中両国の経済交流の拡大とは逆に日中間の政治関係はかってないほど冷え込んでいる。領土問題をはじめ、歴史の認識など両国を巡る未解決の問題が余りにも多い。95年から凍結した対中国無償援助も凍結のままとなっている。また、対中投資の拡大につれて、増値税など多くの問題がクローズアップされている。このような情勢の中で相互理解や交流の活動が急務となり、当センターの活動がこれまで以上に重要になってきた。
 1996年に当センターは日中両国を巡るこうした経済情勢の変化に即応して税制、貿易、金融制度、国有企業の改革などを中心テーマとして活動し、問題の探求と解決策に直結した定言に重点をおいている。具体的には96年の3月7日に当センターは上海社会科学院の全助教授を招いて「21世紀に向ける上海の国際金融センター構想と金融制度の改革」と題する定例研究会を開催した。その後も、3月13日に設立1周年、特別講演会において、李保平中国駐日本大使館参事官より「中日経済交流の現状と問題点」について、小林進当センター顧問から「日本企業の海外投資の現状と問題点」についてそれぞれ異なる立場から報告し、説明をいただいた。4月18日にセンターは対中投資で最も分りにくい中国の税制度ならびに中国の税務管理について、中国の税制度改革を直接指導してきた中国側の権威・中国国家税務総局元副局長、陳景新先生を招いて、中国経済時報と「中国税務政策セミナー」を共催し、「中国の税制改革と外資系企業」と題する講演をしていただいた。同セミナーには 150名も参加し、中国の税制度に対する関心の高さを示している。このように具体的な問題の他に当センターは中国の内陸地域の開発を図るために7月8日に朝・日輸出入商社の朴専務を招き「豆満江開発の現状と問題点」を説明していただき、8月12日には薛敬孝南開大学教授(当センター顧問)に「環渤海湾経済協力と日中協力」をテーマに講演をしていただいた。これらの定例研究会、講演会、セミナーのほかに当センターは96年に日中経済学院をスタートさせ、中国のために人材育成のプロジェクトを開始した。
 このように当センターは常に日中双方が最も必要とする活動を展開し、日中経済交流を阻害する諸問題の解決を希求し、その対応策と改善策の追及に重点をおいた活動に取り組んでいる。当センターは会員200名足らずの民間の任意団体であり、長い歴史を持つ日中間の交流団体と比べて、交流の歴史や経験が不足している。しかも、会員の会費に頼って交流を進めているため、交流の規模などにも問題が少なくない。財政状況がきわめて厳しい状況の中で当センターがこれほど多くの活動を行ってきたことは決して容易なことではない。大島卓・当センター常務理事をはじめ、とするセンタースタッフの献身的な努力、法人会員企業や会員ならびに協力団体のご協力とご支援がなければ、センターの活動はこのような成果を収める事が出来ない。ここでは特に中国大使館に感謝したい。中国大使館は当センターの設立時からセンターの活動を暖かく見守り、支援してくださった。96年に行われた新春特別講演会、税務セミナー、大田区との共催によるセミナーなどはいずれも大使館のご協力の下で行われたものである。
 96年は私個人またセンターにとって生涯忘れられない年でもある。1996年11月に私は国務院僑務弁公室の招聘を受けて中国を訪問した。11月15日に人民大会堂で江沢民主席の会見を受けた。センターがこれまでに行ってきた活動がこのような形で中国政府に認められたことを嬉しく思う。これは私個人というよりセンターの名誉である。江主席は会見の中で「日中友好は歴史の認識をはっきりとさせた基礎の上で促進すべきものである。これを基礎にしてはじめて真の日中友好交流の時代が開かれる」ことを強調されたのである。当センターは江主席の会見を励ましにして今後の活動に生かしていきたいものである。
 97年もセンターをとりまく厳しい情勢が続くことになるが、「堅持は力となり」といわれるように当センターは日中経済交流の促進という大きな理念を掲げ、地に足をしっかりと踏み入れて着実に一歩一歩と活動を続けていきたい。新しい1年にも当センターは決して利に走る事を避けて、当初の目的である「日中両国民の相互理解を深め、友好関係の増進に寄与する事」を忘れず、従来通りにボランディア精神を基礎とした堅実な活動を積み重ね、センターの21世紀への展望を切り開いていく決意である。
  誕生2周年を迎えた日中経済発展センター総会・特別講演会を開催
 日中経済発展センターは2月12日(水)の夜、東京文京区の全水道会館において「設立2周年総会、特別講演会」を開催した。中国駐日本大使館の代表をはじめ、中国および日本の経済、金融、学界及び新聞界など 100人を超える関係者が大会に参加し、会場を埋め尽くしていた。96年3月13日の設立1周年総会に引き続き、今回の大会もセンタースタッフ、会員の努力及び関係者各位の支援により大成功を収めることが出来た。
 大会は大島卓センター常務理事(城西大学教授)の司会により進められた。まず、張紀潯理事長は「1996年度活動報告」を行った。張理事長はまず、「在日中国人学者と日本人専門家の双方によって構成されるセンターは、日中両国の経済、金融、学術界との深いパイプを生かし、内外情勢の変化に即応し中国における税制、金融、労働体制の改革に伴う問題の解決など、実務に直結したテーマを扱い、定例研究会、セミナーなどを通じて日中両国間の相互理解に努めた」とセンターの特色を紹介した。過去1年間にセンターは定例研究会、セミナー、講演会などを合計12回行ってきた。例えば、昨年の4月18日にセンターは中国大使館経済参事処・中央監査法人・日中経済振興協会の後援を得て、『中国経済時報』と中国税務政策セミナーを共催した。中国国家税務総局元局長代理陳景新先生はセミナーにおいて「中国の税制改革と外資系企業」をテーマに講演した。企業の法務担当者、税理士など150人も参加し、中国の税務制度に対する関心の高さを示した。このようにハイレベルの交流を続けてきた結果、日中両国におけるセンターの影響力がますます高まってきている。張理事長は「センターの財政にはまだ多くの問題が残されている」とセンターの問題点を認め、「利に走る事なく、従来通りにボランディア精神を基礎とした堅実な活動を行っていきたい」と抱負を語り、参会者の協力を求めた。
 続いて劉金金中国大使館一等書記官は中国大使館教育処を代表してセンター設立2周年を祝賀し、挨拶された。劉先生は「センターの構成メンバーが日中両国の交流に携わっている造詣の深い経済学者、専門家ばかりである。そのため、創立した時から他の団体にない活力が見られる」とセンターの活動を高く評価した。劉先生はまた、「中日両国民が一緒になって交流を深めていく事が重要であり、その意義において中国にとっても、日本にとってもセンターが重要な団体である」ことを強調し、「センターは今後も、高い目標を掲げ、地道な努力を重ねていけば、必ず成功する」とセンターに対する期待を語った。
 飯島健顧問(さくら総研副社長)は当センターを代表し、あいさつした。飯島顧問は「日中両国は国交を回復してすでに25年の歳月がすぎ去った。一衣帯水の間柄にありながらも、両国の対話が少ないため、相互理解には、まだ問題が多い」ことを指摘した上、「センター活動の意義はまさに相互の対話を深めることにある。相互理解の促進を活動の重点と位置付け、交流を続けていきたいと」とセンター活動の方針を分りやすく説明した。 特別講演会では中国全国政協委員、北京大学と香港科学技術大学の二つの大学の教授を勤める林毅夫先生が「岐路に立つ中国経済」をテームに講演を行った。林先生はアメリカシカゴ大学でシェルツ先生(ノーベル経済学賞取得者)に師事し、経済博士号を取得した。帰国後、林先生は北京大学中国経済研究中心を創設し、近代経済学の研究手法を中国経済の研究に導入する上で大きな貢献をされた。林先生は中国経済が直面する問題点として「■経済成長に見られる「活性化→混乱」の周期的現象、■国有企業改革の難しさ、■地域経済発展の格差、■食料問題などをあげ、問題の解決策をさまざまな角度から説明した。さらに、林先生は中国経済の活路を市場経済の育成と発展に求め、市場に沿って経済改革をしていけば、「21世紀には中国が世界最大の市場と最大の経済になるに違いない」と展望した。中国経済の活性化をいかに日本経済に生かすかについては、林先生は、次のような三つの問題を解決しなければならない」としている。すなわち、第1に日本は比較優位を持つ製品がいかに中国市場に参入し、中国市場の占有率を高めるか、第2に相対的に豊富な資金を中国市場に投入し、いかにして高い回収率を実現するのか、第3にハイテク技術を中国に移転すると同時に技術開発と技術革新の速度をいかに速めるか、の三つである。林先生は、「もし今後、中国経済が20年ないし30年の経済成長を続けていけば、中国は投資回収率の最も高い地域となる。対外開放政策が続く限り、日本にとって中国は最大の販売地域になる」と語り、「日本の経済成長はアジア地域で初めての奇跡を生み出した。アジアNIESは第2の奇跡を生み出した。そして「改革・開放」以降、17年間も高い経済成長を持続した中国は第3の奇跡を引き起こした。中国は日本と同じように、40年間の経済成長を持続していけば、かつてない奇跡を生み出すことになろう」と話を結んだ。
 さすがにアメリカで研究された成果をベースに林先生の講演の着眼点がよく、簡潔明瞭で強い説得力を持っている。原稿なしのご講演は、参会者を大いに魅了した。続いて、薛新軍一橋大学助教授と杜進北九州大学助教授は林先生の講演についてコメントをした。特別講演は1時間ほどを予定していたが、参会者の熱意に応えて、講演の時間を1時間ほど延長し、質疑は夜の9 時まで続いた。閉会のごあいさつに立ったのは中国経済研究の大先輩石川滋教授である。石川教授は昨年の暮れに林先生の所属する中国経済研究センターを訪問したときの印象を交えながら、中国経済研究センターの位置付けについて紹介し、「中国経済研究に新風を吹いた」と林教授の功績を高く評価した。同時に「このような知的な交流を今後も続けてほしい」とご期待の言葉を述べられた。
 馮昭奎全国日本経済学会副会長、康栄平世界経済与政治研究所主任など短期訪日中の諸先生方もわざわざ会場にかけつけた。当センターの小林進顧問(東洋学院大学教授)、荒川孝理事(文化女子大学教授)をはじめ、林小利文匯報東京支局長、陳志江光明日報東京支局長など新聞各社も10社も会議に参加した。
 会議の受付責任者を勤めたのが樊勇明博士(三井海上研究所副所長、当センター評議員)であり、城西大学大島ゼミ、張ゼミの学生たちは会場の運営に大きく貢献している。さらに林先生の通訳を勤めたのが李春利博士(会員、東京大学客員研究員)である。約2時間にわたる李博士の素晴らしい通訳は参会者一同に深い印象を残した。このようにセンターの活動は日中交流を志す多くの人々によって支えられている。また、人と人の心の交流を第一に考えるセンターというだけあって会議の雰囲気は実に親しく和らかなものであった。